薄荷塔ニッキ

飛び石を渉れない。

「百円下さい」

JR大阪駅の券売機の前で、百円下さいと喪服の女性に声を掛けられた。切符を買いたいらしい。渡す理由は無かったけれど断る理由もそれほどには無かったし、百円玉は幾つかがま口に入っていて早急に要るような気はしなかったので、私は百円玉を一枚差し出した。喪服女性はありがとうと云ったけれど、その百円があれば券売機から切符を買うというわけではなかったようだと見て取れたので、混乱した。もやもやしたと云っても良い。百円、せびられたんだな私、と思うと自分にもやもやする。何故快さげな表情でがま口を開いたのだろう。隙があるというか、世間一般に対する姿勢が甘いのか。純真ではない。己のことを純真などと云うのは不純だ。莫迦か。まあ色々考えさせてくれる、或いはもやもやさせてくれる体験でした。

 あまり何度も遭遇したい事態ではないが。