- 作者: 江國香織
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2015/05/28
- メディア: 文庫
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月曜に出掛け先で選んだ江國香織『ちょうちんそで』(新潮文庫)を読んだ。
久々の江國香織だった。
昨今幾つか読んで嫌だった類いの江國香織のように恋や男や肉体関係に依存した小説ではなく、主人公が、自分の意識内に子どもの頃のことをきちんとつけていて(「子どもをつける」という表現は変なのだけれど、つまりその人からは子ども時代が永遠にひっぱがせないものであるので、そういう風になる)幾人かに過去があって(それが登場人物や場合によって忘却されたものであろうと、へばりつくものであろうと兎に角過去がきちんとあって)、単語や描写が丁寧で、かなしくて、そういう江國香織の本を一夜で読み終えるのは幸福で良かった。
かつて江國香織を読むことはそういうことだった。と考えると、私にも子どもがくっついていることが分かる。十代の夜中にアイリッシュ珈琲もどきを暗い台所で作って、部屋に持ち帰って独りで時の経つ、新潮文庫の夜のことは、今よく分からない気分で過ごしている現実よりもずっと確固としている。
一昨日、優れた文学だの売れているけれど良くない本が許せないだのというださい話題に返事をしていてしまって気分が沈んでいたので好ましい本を読めて良かった。
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22日の夕食の時間の頃、夫が宮崎駿監督の話題に触れた。関連して『君の名は。』が出た。
観ていないので良し悪し何も無いのだけれど、書店でちょっと流れていた広告映像で妙に泣いてしまいそうに咽がくるしかったことがある。新海誠自体に今は、映画のタイトルをここに書く為に検索した程度に興味は無いのだけれど、ただ映画を観たひとの「泣いた」というコメントも何度か目にしたので、人間の感情から涙を引き出すのが上手な、涙腺の蛇口の緩みの弱そうな部分を触るのが上手な作り手は、それは優れた制作ではないと思った。
優れたというか、誠実というか、単純に云うと許せるというか。
というわけで「新海誠はつまらないのでは」と云うと、夫が何だか忘れたけれど〈そんなら自分もやってみろ〉という意の新海誠の決め台詞を教えてくれたのだけれど、そんな他人の鼻腔の奥の粘膜を突つくようなことを自分もやってみせる気は無いと思う。
「泣ける映画」や「泣ける本」が欲しいひとは、何かに感動する自分を確認してみることで気分が良くなる性質なのかも知れない。そして「泣ける〜」はよく好評になるという仕組みかな、と思ったり。
私はすぐ泣く人間で、今日も泣いたけれど、ただ、きちんとした感情で泣きたい。誠実というか、単純に云うと許せることかどうかというか。結局自分が自分を許せるようになるようにしようとしないとどんどん存えられなくなる。
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何の話だっけ?
つまりね、優れた文学を作ってゆかねばとかいう話題に返事をしてしまって沈んでいたのだけど、今日は読書が楽しかったよ。
16くらいの夜に重なっていった、江國香織が過去として置かれている。
夜と、アイリッシュ珈琲とセットになっているのは『神様のボート』や『流しのしたの骨』だ。ちなみにアイリッシュと云ってもざらめ砂糖は省いているので、偽物だ。
『なつのひかり』や『きらきらひかる』や『すいかの匂い』やその類の頃はもっと幼かったから外は昼だったりしたし、読んでいた場所はピアノの下や市バスや図書室などで、周りに他人の気配がある。その中間くらいに『落下する夕方』は浮いている。
それから、江國香織も他の著者本も、本屋で欲しい本の冊数と予算が合わなくて、それは「死ぬほど悩む」ことだったこともこうやって書くと思い出す。最初に学校の図書室で借りて、次に図書館で借りたこともあって、最終的には書店で予算に悩みながら自室で好きなときに好きなだけ読めるべく購入に至るそれらを思い出す。図書室の明るい窓。大型書店の夜。帰り道。どれも鮮明過ぎる。過去だけが鮮明過ぎて、現在時点に立つのが難しい。
この話の結論は、今日この部屋で読んだ『ちょうちんそで』もまた(鮮明な)過去として置かれるのだろうということだ。自分から剥がれないものが増えていくことが、かなしくてくるしい。今は茫々としているのに過去になった途端に金属のような鮮明さに変わってゆく。
- 作者: 江國香織
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1999/07
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- 作者: 江國香織
- 出版社/メーカー: 新潮社
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- 作者: 江國香織
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 1999/05/20
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- 作者: 江國香織
- 出版社/メーカー: 集英社
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『神様のボート』は持っているのは(前述通りお財布のそれで)文庫版なのだけれど、図書室で借りた安西水丸さんのこの表紙のストイシズムのままで文庫になっていれば良いのに。
江國香織の文庫本の背は、断然新潮文庫と集英社文庫が好い。書影をリンクしてもblogには表れないのだけれど、装幀の話というより兎に角、背の色について。