薄荷塔ニッキ

飛び石を渉れない。

歓迎会

 新入生歓迎会だった。生徒会のグダグダな進行にちょっとかおを顰めながら、講堂の一番後ろに座っている私のそばに高校のクラスのみんながいる。歌ったり、手を叩いたり、歌ったり。校歌とか聖歌(ミッションスクールだったので)ではなく、J-popやポピュラー音楽。rumania montevideoをみんなで歌っていたのは、それは完璧に私の嗜好が夢に表れていたのだけれど、私の知らなくて、ちょっと耳にしたことがあるみんなの好きな歌、でも私はよく知らない歌、というのも曲目リストに入っていた。男子がいた。実際のところは女子校だったのでなんだか違和感があったけれど、そうそう中学生の方は男子もいるんだっけ、と夢のなかの私は思う(中高一貫校なので、こういう行事は中学生と高校生が一同に介して行われることがある)。

 テンポの悪いグダグダの司会進行で、指定された学年が前にいって物を貰ったり、また席に戻ったり、講堂の後ろのドアから組み体操の恰好で入ってきたりする。組み体操のポーズで入ってくるのはなんだか難儀そうだ。それは主に男子がやっている。男子がこんなにいるのを見るの、久し振りじゃない、と私は呟く。(なにしろ、実際は女子校だったのでそんな光景は小学校以来なのである)

 呼ばれて講堂の前の方にゆくと、仮装の服が渡される。多くの女の子が花柄のボンネットとワンピース(大草原のローラが着けていそうな、あれ)を身に着けたりしている。私はそういうお洋服は好きなのでちょっと嬉しい。みんなが着ているのがまた愉しく嬉しい。が、私が前に進む番になると紺色のスカートを渡された。刺繍が入っているところは民族衣装っぽく、フレアはたっぷりで可愛いけれど、私も花柄コットンローンのボンネットが良かったな、と、ちょっと残念に思う。

 今日は7階のお手洗いは使用出来ません、とひとりの先生がアナウンスする。7階って何処だっけ、と考えるが分からない。分からないが、私の母校は迷路みたいな造りだったので7階と呼ぶ場所があっても不思議ではないだろうと思う。

 去年の歓迎会のときの写真があるので受け取りにくるようにアナウンスメントがあって、また前に行く。友だちが一緒にいる。写真には桃色っぽく手染めした布とペコちゃんのかぶり物をした私たちが写っている。ペコちゃんは蒼白だ。なんだ、適当な造型なのか、というか、髪と目が黒くてぺろっと出した舌は赤くて、かおは真っ白のペコちゃん。あたまに被るものだからとても大きい。ああ、なんかこれ作っていた1年前さ、きみ気分悪いって云って倒れかけたっけね、そうだったねえ、と友だちのことを思い出す。彼女は私の前にいる。去年も今年も歓迎会、一緒に出られたね、私は口には出さずに思う。ちょっと小さい声で云ったかも知れないが、彼女には聞こえていない。来年はどうかなーもう歓迎会そんな出ないよね部活とかも無いし、あ、でも私たち送別会だからやっぱり出席じゃん、なんか、ねえ、きみと毎年一緒にここにいたね。なんだか切ない。喉の奥が詰まって、苦しい。泣きそうだ。

 泣いたら、目が覚めた。

 夢のなかの小学校の教諭と中高の教諭が交ざっていた。友だちは高校生のときのみんなだった。彼女は、私が泣いているときは、微笑んでくれない。夢のなかで、いつも、そうだ。私が平穏だと、夢でかおを合わせる彼女はにこにこしてくれる。私の身勝手かも知れないけれど。


 rumania montevideoじゃなくても良いから、みんなで、ほぼ全校生徒たちがみんなで大きな声で、私たちの好きな歌を笑顔で歌いたかった。記憶のなかでは実際にはそういうことは無かったと思う。みんなで、大体みんなが好きな好い歌をあんなに大きい声で、手を打ちながら、愉しそうに歌えていたら……キュン死する。ぼうっと涙の感触を放置したまま、思った。