薄荷塔ニッキ

飛び石を渉れない。

今日マチ子『アノネ、』上下巻

20150630221518

コミック1026円 / Kindle 857円

20150630221517

コミック1026円 / Kindle 857円

 アンネ・フランクを模した日本人名の少女、花子とその家族。本棚の向こうの隠れ家の暮らしはすぐに終わり、あとはホロコーストの描写ばかりが続く。戦争と少女の漫画集の第1作目『cocoon』よりは柔らかめの描写が多かった。

 勝手な感想だが、アンネの姉マルゴーをモデルにしたであろう花子の姉、真子についての描写が厳しくて、つまり何処とは無しに悪役に近いポジションに置かれてしまって、なんだか可哀想だった。いつも明るく、誰にでも優しいアンネ。聡い瞳で、ユダヤ人収容所のなかでも笑顔を捨てなかったアンネ。彼女にスポットライトが当たるとき、どうしても周りのひとたちは陰になる。

 アンネ・フランクの言葉は「私は死んでからも生き続けたい」なのだと、子どもの頃、本で読んでいた。今、私が思い浮かべてしまうのは、アンネ・フランク自身ではなく、その向こうにいた無数のユダヤ人少女たちだ。彼女たちも中には、ものを書くことが大好きで、将来はジャーナリストになって……アンネと同じ希望を持っていた少女が居なかったとは断言出来ない。アンネを貶める云い方のようだが、その無数のアンネたちは、ホロコーストから救出され、また人生を歩む。街で、アンネの日記の書籍を見つける。……私だって書いていたのに……。そう、呟く。たぶん私がその立場だったら、呟いて、哀しくて、そんなことに哀しむ自分が馬鹿馬鹿しく淋しくて、苦しいだろうと思う。……私だって、ホロコーストで死んで後日日記が発見されたら、私がアンネだった……。いや、もっと酷なことを云うと、ホロコーストで死んだ少女たちのなかには他にもノートに何か書き付けていたひとがいなかったとは云えないか? 彼女は死んだ、誰にも見つけられなかった帖面も失われた、そういうことは、無かったとは云えない。不遜な云い方だろうけれど、アンネという一少女に焦点を当てたとき、私が考えるのはその向こうにいる少女たちなのかも知れない。勿論、アンネ・フランクだって生きていたかっただろうし、だからこういう云い様の文章は良くないものだとは思う。それでも、戦後の人生のなかで唇を咬んだことのある女性はいるのだろうか、と考えてしまう。