薄荷塔ニッキ

飛び石を渉れない。

2017.07.03

 注文した本。
 古書で1円のものばかり狙っている(けど文具の「あわせ買い」の要領で新刊も買った)

 打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか? (角川文庫) 少年たちは花火を横から見たかった (角川文庫)

 『東京ミカエル』何故か上巻だけBOOKOFFで買ったままだったので。これは、『冬の教室』という本が裏設定になっていて、その本が好きだから読みたいのだ。

 冬の教室 (徳間デュアル文庫) 東京ミカエル―Seventeen’s wars (上) (ニュータイプ100%コミックス) 東京ミカエル―Seventeen’s wars (下) (ニュータイプ100%コミックス)

 
 白倉由美大塚英志)は中毒性が高いと思う。そのうえ絶版になることが多かったので今読まなくては、という気持ちが強い(現に、絶版が多かったので1円の古本を注文した)

 しっぽでごめんね  ラジオ・キス (YA! ENTERTAINMENT) ゴーストベイビー



  Δ

 もともと高校生のときに購読していた『メフィスト』誌で読んだ「おおきくなりません」がきっかけだった。いや、本当は「おおきくなりません」は熱心には読んでいなくて(私は正直なところ、森博嗣の頁が読めればそれで幸せだったのだ)「おおきくなりません」が終わったと思ったら「やっぱりおおきくなりません」が連載され始めたので、(なんだそれは)と思って連載第1回から読み始めて、そしてずぶずぶと嵌った。「おおきくなれない」主人公の麻巳美は、17歳だった私自身の「おおきくなれなさ」に酷い共振を呼んだ。

 私は言葉もなく立ちつくした。
 私は、ちいさい。
 おおきくなれない。

 そのまま、メフィスト誌の広告に載っていた『グレーテルの記憶』を浪人生になった頃注文した。思えば講談社第三文芸出版部もいっときの風潮のあった時代だった。

 大学に進学した友だちが(何故か私の下宿にやってくることが多く、私を着せ替えては写真を撮ってwebサイトを作っていた。痛々しい。恥ずかしい)彼女は私から『グレーテルの記憶』を借りて、そして単行本化された『おおきくなりません』を買って、やっぱりドハマりした。そのまま、彼女は「私はおおきくなれないのです」と何度かweb日記に記し、暫くして投身した。致死的な高さではないところから落ちて、本当は少し怪我をしたかっただけのような、誰かに構って欲しかっただけの、それでも間違って死んでしまった、そんな形だったかも知れない。私の携帯端末に「あと1時間後私は死にます」とメールがあった。その1時間に何かを求められていたとは、深く考えると息が出来なくなるから、出来るだけ堪えているけれど、それはただ謝罪と感謝のメールだったのかも知れない。母親と私(とお兄さん?)に出していたらしい。

 あの子に私が白倉由美を貸さなかったら、と思うことがある。そうすれば少なくとも「私はおおきくなれないの」と彼女が主張することはなかったのではないかと。


 白倉由美はその後、何年もして発行された『やっぱりおおきくなりません』でハッピーエンドを初めて書くことになる(氏の作品は大抵自殺や失踪で終わっていた)

 月哉さん、私は元気だよ。私は月哉さんに買ってもらった黒いジャケットと膝までの暖かいスカートに編み上げの靴を履いて、遠く遙かな旅に出る。

 おおきくなるために。

「そうだなぁ、でも僕はいつもおおきくなろうと努力している麻巳美が好きだよ」

 死んだひとにはそんなハッピーエンドは届かない。何をどう悔やめば良いのか分からないし本当は何も悔やまなくて良いのかも知れない。
 夢をみることがあると、本当にちょくちょくと、友だちは現れる。大体、彼女が死んだことなど夢のなかの私はよく分かっていなくて、友だちとして遊んでいる。私はいつかまた夢じゃないところでもあの子と遊べたら良いのかなと思う。兎も角、彼女の遺した部屋には私が初めて出版した本があって、だから最新刊もまたあの家に送ろう。

 おおきくなりません やっぱりおおきくなりません (徳間デュアル文庫)

 グレーテルの記憶 (MEPHISTO COMICS)


 魔女の老婆を煮えたぎる釜に突き飛ばした記憶を持っているのは、グレーテルだけなのです。その記憶をたずさえて、グレーテルは生きるのでしょうか、生きてゆけるのでしょうか、それでもやっぱり、私たちは生きていかなければならないのです。グレーテルの記憶を持ったまま。

 白倉由美の感受性は10代の頃今に到るまで、衝撃的な繊細さを併せ持つ、甘美な水だ。駄目な弱い蟻のように、私は這って寄せられてしまう。