薄荷塔ニッキ

飛び石を渉れない。

aŭto

 朝、車に乗って、夜の21時まで乗っていた。運転は出来ないので最初は後部座席で仕事をして、それから助手席で編み物をしていた。腱鞘炎になった。運転手の夫はハンドルを握りっぱなしだったのに腱鞘炎にならないものかと思った。そうして御殿場を出発して、秋田に着いた。途中で一旦車酔いをして眠って、起きたら嘘みたいに爽快だった。酔っているときは大変気持ちが悪く、治ると嘘みたいに気分が良い、という当たり前のことを何度かくちに出して感心した。
 今、夫が運転している車はよく揺れるというか、車酔いし易いらしい。夫が、「安かった」と云う。台灣から帰って急いで車を買わなければならなかったし、尼崎では車が無いと何かと不便だし、私は電車移動時によくパニック発作を起こすし、夫はマニュアル車を選ぶことを諦めてミッションにした。……マニュアルがどっちでミッションがどっちか私には解っていないのでこの文章は嘘かも知れない。それから、「マニュアルミッションの車だ」という説を聞いたこともある。最近、夫の運転する車はスズキという会社が造っていると知ったし、たぶんアルトとかそういう名前だということも覚えた。関心を深く持っていないのですぐ忘れる。私にとって大事なことは、車体が白いのにバックミラーが赤くて、車体にも赤いラインが入っていて、それが可愛い、と思っているそれだけだし、それだけのことで何処の駐車場でも夫の車を見つけることが出来る。
 尼崎はバスも走っているし電車も徹が、車があった方が楽な都市だと思う。コストコに大挙してやってくるひとたちが居る。少なくとも自転車はあった方が良い。

 御殿場を出て、後部座席で仕事をして、それから眠って(夜は3時間睡眠だった)、宇都宮で餃子を食べた。宇都宮が餃子の街だとは知らなかった。とても美味しかった。大蒜というより生姜が利いていた。台灣の餃子や肉饅は最高に美味しかったと思うが、こういう日本向けに少しアレンジされているのもとても良い。12個もぺろりと食べた。夫は6個の餃子と白米と味噌汁の定食を食べたが、私は定食というものが酷く苦手なので、12個の餃子をお腹に収めて終える。しかし、餃子に味噌汁、とは。
 宇都宮のSAは美味しそうなものが揃っていて、関西に通ずるものを感じた。何しろ、東の方には「美味しくない飲食店」というものが存在する。関西にはそんな店は無い、と思う。あったら潰れる。だから美味しそうな宇都宮は大阪の雰囲気と似ている。「大陸寄りなんだろうな」と夫が云った。

 

 オカワダアキナ氏の著作『水ギョーザとの交接』の巡礼である。

  * 

 宮城を通り、岩手に入り、SAで夕食を食べた。
 さらっと書いているが、これが朝から晩まで車に乗っていたということだ。紫波SAで三陸磯浜ラーメンを食べた。めかぶや海藻が入っていて桜海老が少し散っている美味しいラーメンだった。この旅で麺類を多く食べている。

 

 折角のイーハトーヴォだから宮澤賢治ゆかりのものをお土産に買いたかったけれど、SAで文学少女の友人に贈るものを買うのは難し過ぎた。宮澤賢治のお煎餅を買ったとしても文学少女は苦笑を禁じ得ないのではないかと思うし、私が貰ったら感謝を表しても内心苦笑してしまうと思う。帰路の際に宮澤賢治記念館に寄り道することを検討していたが、朝から晩まで掛けて東北にきたことを思うと、帰り道も朝から晩まで掛けて東京まで辿り着いた方が賢明だろうという結論になっている。

 岩手を出て──ブラッディムーンが綺麗に見えた──山道を通り秋田に入った。熊が出るという注意書きが幾つか見えて、熊が出たら、という件について運転する夫と話した。最近ネットで見たニュースのように、左手を噛ませて喉の奥に突っ込み、右手に持った斧で頭を割れば身を護れる。が、斧は持っていない。私はバムセとコニシキ、というのは子豚のぬいぐるみなのだがそのふたりの安全が第一なので、私を熊に食べさせているあいだに夫が車を運転して逃げるのが良策だ、と何度か話し合ったけれど、夫はその後世間に酷く否定的な目で見られることは間違いない。私が熊に噛まれながら最後のちからを振り絞ってtwitterに、

 夫が熊からバムセたちを護ってくれた。最大限に感謝している。本当に幸せだ。

 と投稿してから傷を負えば良い、という結論に達したが、そこでtwitterを触っているんだ!? という突っ込みは避けられない。

 兎に角秋田のホテルに着いた。温泉の匂いがして、値段の割に広い。値段の割に、と云ったのは夫である。部屋の右半分にコンセントプラグがあって、左半分には無い、が、左半分に卓があってそちらが明るいので、Macをバッテリで使っている。夫が眠り、隣の部屋から男女がよがる高い声が聞こえ、そういうことに奥手な私は、おおおう、と思いながら聞きつつ、『風の歌を聴け』を読んでいた。アダルトヴィデヲみたいだ! と思ったけれど、実のところアダルトヴィデヲだって碌に観たことは無い。
 昨日鯨さんがS氏に、「このひとはは人生経験が無いんだよ」と一言ですぱっと説明をしていた。だいたい合っている。

 ホテルはWi-Fiが無くてiPhoneからデザリングしている。iPhoneYouTubeを観ること無く、ソーシャルゲームをすることが無ければ、大体通信制限には引っ掛からない。

風の歌を聴け』の冒頭の断章的とっちゃらかり具合に、『ウディ・アレンの愛と死』を思い出して、ウディ・アレンが映画化すれば良いのではないか、と思ったけれど、私は他のウディ・アレン作品を観ていないのできっと偏った考えだと思う。もうすぐレンタルDVDで借りた、『風の歌を聴け』を観る、勿論ウディ・アレン監督主演作品ではない邦画だ。

 

風の歌を聴け (講談社文庫)

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 何故秋田県まではるばるやってきたかというと、ハイコーフェス8というフェスを観に、そして出演する大森靖子さんを目的にしてきたからで、いつもは本を売る行商の旅をしているので、今回は尼崎文学だらけと文学フリマを終えた慰安旅行のような感じがする。任務が無い、ということがちょっと落ち着かない。良いホテルなので仕事をしようと思う。どうせ少ししか眠れないし。

 

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 最大級の気合いを込めてマニキュアを塗った。変なにきびも無い状態で良き哉。ミニボトルで買ったワインを、フルボトルで買っていたらそれでもっと良かっただろうけれど別に構わない。