花の時期なので読み返しました。
- 作者: 梶井基次郎
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 1986/08/01
- メディア: 文庫
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桜の樹の下には屍体が埋まつてゐる!
冒頭1行目にエクスクラメーションマークが付いているのでわらってしまう。
何故か可笑しい。
どうして俺が毎晩家へ帰つて来る道で、俺の部屋の数ある道具のうちの、選よりに選つてちつぽけな薄つぺらいもの、安全剃刀かみそりの刃なんぞが、千里眼のやうに思ひ浮んで来るのか――お前はそれがわからないと云つたが――そして俺にもやはりそれがわからないのだが――それもこれもやつぱり同じやうなことにちがひない。
何があんな花弁を作り、何があんな蕋ずゐを作つてゐるのか、俺は毛根の吸ひあげる水晶のやうな液が、静かな行列を作つて、維管束ゐくわんそくのなかを夢のやうにあがつてゆくのが見えるやうだ。
美しい透視術ぢやないか。
俺には惨劇が必要なんだ。その平衡があつて、はじめて俺の心象は明確になつて来る。俺の心は悪鬼のやうに憂欝に渇いてゐる。俺の心に憂欝が完成するときにばかり、俺の心は和なごんで来る。
青空文庫でも読めます。