薄荷塔ニッキ

飛び石を渉れない。

森井聖大『超S宣言』

 正式には『宇宙時代の処世術 宇宙通 超S宣言』一瞬おぅかわりゅぅほうの書籍の題名を連想する。

 9月の文学フリマ大阪の前夜、牟礼鯨ナイト(?)の催されたデジタルカフェスクリプトにて「泉由良には読ませたい」と森井さんがおっしゃったのですが大阪では受け取り損なったものを、今回第十九回文学フリマにて進呈して下さいました。心が広い。 そして私はご挨拶に出向くこともなく、この本はおとそ大学パブリッシング のにゃんしーさんが託かってきてくれたので、もう、ご挨拶しなくてすみませんでした……。

 要するに統合失調症感情障害の患者が「S」であり、語り手(森井聖大氏ご自身?)は「S親和者」であるようですが、たぶん私がその病名──これは正確には「統合失調感情障害」では──を付けられたり双極性2型を患っているのを見通して、処方箋として下さったのでしょう。優しいですね。しかしいつ見透かしたのかが分かりません。何故!? 森井聖大さんの休止中のサークルの名前も“何故?”です。

 メールの情報を頼りに、きちがいじみた、僕ッ子で、ヤク中の、アラサー女を探した。(中略)Kは目が痛くなるような極彩色のワンピースを着てベージュのヘアバンドをしている顔色が悪い年齢不詳の女だった。

 ベージュのヘアバンドと入院歴の有無以外大体当てはまる。僕ッ子はあんまりしていない筈だけれど、自分はアラサーだし顔色は悪いし服薬は欠かせないし洋服はカラフルだし。色々身につまされながらも文体が面白いので読み進める。ちなみにこのKの名前とは「きちがいのKよ」とK自身が云う。きちがいって言葉、良いよね。

「あなたの妄想は楽しいけど、わたしの妄想は哀しい」
「被害妄想と誇大妄想の差かな?」

 この返答が云い得て妙過ぎる。大体この本は読み進めるほどに誇大妄想めいた文章に発展していって面白い(何しろ発想は宇宙に至るまで、この誇大妄想は発展する)のに私自身は被害妄想の人間であるのも確かなのだった。

 実際のところこの本を読んで私の体調が恢復することは無いみたいですが、面白く読みましたし、自分に似たひとが登場すると自分が居ても良いような気分になって安定感を覚えました。

 ただ、日本から台灣に帰るあいだの飛行機で読んだので、ふと気付くと(この表紙を堂々と見せながら読んでいるのか……)と少々恥ずかしくなった。#1E90FFくらいの鮮やかな青い表紙に大きく明朝体らしきフォントで「超宣言」と題字があって、Sの文字だけ真っ赤である。そしてカメラ目線で海に浮かんでいる男性。CSのお姉さん方はどう思われただろう。

 本文は良い意味でさくさく読めて、なかなか身につまされる部分はあれど面白かったです。うむ、これを私に下さる意味がある、といたく感服致しました。ありがとうございました。

 本題とは外れますが森井聖大さんは今回の文学フリマでは文学フリマ関係者をモデルにした挙げ句どんどん死なせる本を頒布されていたようで、私もちょっとした関係者になって殺されたい! と思いました。しかし読むべき対象として進呈して下さって本当にありがたいです。そして、私のような症例サンプルじゃない常識的方々にも面白い本だと思います。

書影

超S宣言

副読本

 『分裂病と人類』中井久夫

★Link

森井聖大氏のblog記事

森井聖大氏のデジタルカフェについてのblog記事
 イニシャルトークに凝っていたらしく、泉由Rと名前を伏せた名称で泉が登場する。それでは伏せていないだろう、と思う。

西瓜鯨油社さんちの第二回文学フリマ前夜祭の記事
 この記事で「永遠の底五<泉由良>」と呼ばれる。ウサビッチと呼ばれるのも嬉しいけれど、呼び名を付けて頂くということはとっても嬉しい。

デジタルカフェスクリプト

 味園ビルのなかにある超良いBARです。お薦めです。ただ、未来人のデジタルさん(デジタルケイタさん)はあまりログインしていらっしゃらないのが残念。

 世の中やさしくして下さるひとたちが居て、私は幸せものだと思いました。