薄荷塔ニッキ

飛び石を渉れない。

「さすらいエマノン」

さすらいエマノン(リュウコミックス)

さすらいエマノン(リュウコミックス)

 本棚から出して、1頁捲ったらもう世界に全身が溺れてしまっていて、本棚の前で立ちっ放しで全部を読んだ。自分の家の部屋の、本棚の前での立ち読み。自宅で立ち読みって変なの、とは思うけれど、面白い本ってそういうことだって思う。絵の具のすじさえよく判るフルカラーの頁が多くて美しい、梶尾真治エマノン」シリーズの漫画版。鶴田謙二の描くエマノンのコミック。長い髪にそばかすがあって、煙草を吸うエマノン生成り色、アラン模様のセータを着ていて、「E.N」と書かれたナップサックだけで旅をするエマノン。60億年の記憶を憶えている、エマノン

 SF小説は自分は得意ではないのだと思っていた。でも、私はエマノンの世界を総て知りたい。まだ未読のものがある。何しろエマノンの物語は単純に云って60億年ある。

 読み終わって嘆息して、それから気が付いて慌ててメモ帖に書いた。伏線は油断無く張られている。エマノンが何故か双子の兄を持って生まれてしまった'60年代、熊本で巡り会った双子の兄は荏口拓麻。TAKUMAと彫られたエマノンが使っているジッポ。次にエマノンが拓磨に巡り会う日にちを予告して終わる物語。何かを暗示している。拓麻が持っている能力も。……しかし疑い出すと果てしない。前半のカラー短篇でエマノンの友人として描かれているヒカリ。エマノンが過去を携えて生きているとしたら、ヒカリは未来を持っている? 私はまだまだエマノンの物語を知りたい。

 エマノンが煙草を吸っている理由が描かれていた。単なる蓮っ葉な少女であるという設定の、見せ掛けでは、なかった。